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草船借箭の計(そうせんしゃくせんのけい)

かの三国志、『赤壁の戦い( レッドクリフ)』には叡智が溢れている。曹操が率いる『魏(ぎ)』に対抗するために劉備の『蜀(しょく)』、孫権の『呉(ご)』にてそれぞれ軍師を務める、『呉』の周瑜、『蜀』の諸葛亮孔明の二人の天才策士のやり取りの中で、『呉』と『蜀』、二国が合わさっても到底敵わない人数を誇る『魏』に対抗するために、前線で文字通り身体を張って戦いに身を投じる武将たちとは違った形で、誰にも知られずに、密かに命を懸けるやりとりがあった。周瑜は、孔明に言った。

 

周瑜

3日以内に矢を10万本用意できなければ、軍法により斬首刑に処す。

 

(周瑜も、同じく別の約束をし、それができなければ同じ処罰を食らうとした。)孔明の君主である劉備が、矢を4万本持って行ってしまったのだ。ただでさえ不利な状況にあったのに、この責任をどう取るのか。二人が負った責任を果たすのは、容易ではない。二人が凡人なら、場は殺伐としただろう。だが、お互いは、『責任転嫁』というなすり合いをするというよりは、むしろ相手の力量を測りながら『楽しむ』、余裕さえあった。

 

(噂に聞く天才軍師の腕は、いかなるものか?)

 

この後の二人の取った行動が、叡智に溢れているのだ。周瑜の智慧については、以前書いたメタの世界にその内容を詰めたが、今回取り上げるのは、孔明の智慧である。約束から丸1日、何もしない孔明を見て、お供が焦り、言う。

 

孔明さん、大丈夫なんですか!?もう後2日しかないですよ!?

お供の男

 

だが孔明は、『風林火山』の兵法を心得ていた。2日目、空が『濃霧』に包まれたのを見た時、『天の利』が満を持したと見極めた孔明は、たった20隻の船に”藁”を敷き詰め、『魏』の待機する船の群れに突っ込んだ。 20隻の船から太鼓で音を立てながら、見通しの悪い濃霧の中、孔明は『魏』の船に向かって、数百発の威嚇射撃をした。すると、『魏』の船は、孔明が率いる船の数を読み違え、過大評価した。その何百倍もの矢をこちらに打ちこみ、想定した数100隻の船を沈めようとしたからだ。

 

だが、実際は20隻。孔明は、敷き詰めた藁に相手の矢が刺さるように方向を変え、見事、矢を10万本手に入れたのだ。これを、『草船借箭の計』と言う。そしてその後も、二人の軍師を中心に、幾多の『罠』や『戦略』を駆使して、同盟を組んだ二国は、『魏』を返り打つことが出来た。

 

ここから学べるのは、『天の利、地の利』を最大限に活かした『風林火山』の孫子の兵法、『リソース(ヒト、モノ、カネ)の限界』、そして、その『最適化』である。『草船借箭』とは、知恵を運用して、他人の力と財力で自分の目的を達成する、ということの表現。これを現代社会に置き換えて、会社経営で例えるならば、さしずめ、銀行から資金を融資してもらい、あるいは株を公開して株主からお金を集め、そのお金で事業を大きくするというその経営戦術もさることながら、私は今回、『広告』という分野に特化して、ここからこう考える。

 

  • 『矢』=『PUSH型広告』
  • 『罠』=『PULL型広告』

 

リソース(この場合では『矢』)が無限なのであれば、そもそも孔明の智慧は必要なかった。だが、この世の全ては、『有限』である。IT革命によりWeb2.0の時代に突入してからというものの、消費者の購買心理は『AIDMA』から『AISAS』へと変化した。例えば、『鳥(顧客)』を打ちとめたいと思った時、まずは『矢(PUSH型広告)』を打たなければ話にならない。

 

 

だが、まずは『矢』がなければ、矢を打てない(チラシ、Web広告、PPC、CM、及びその広告費)。それに、その『矢』は、鳥(顧客)の心臓に当たらなければ(デザイン、コンテンツ、マーケティング、プロモーション)、打ちとめられない。そして、もし当たったとしても、『AISAS』のこの時代、下に、文字通り『Web(クモの巣が語源)』という『網』が用意されていなければ、それを収穫できない(aiSasの、S=Search(検索))。

 

『続きはWebで』というキーワードはもはや当たり前のように浸透しているが、今後ますますそういったクロスマーケティングは当たり前の常識になっていく。限界のあるリソースを、いかにして”最適化”するか。孔明が見せた、『草船借箭の計』から学べる経営戦術は、まさに金脈の掘り当て方を教える、宝の地図に、等しい。